2014年6月18日水曜日

"Je ne sais pas si j'étais trop fatiguée."

先月末のこと。デイサービスのスタッフから「たいへんお熱が高いのですが」と電話がかかった。

デイサービスヘ行くと、着いてすぐにまずヴァイタルチェックがある。体温、血圧、脈拍を測る。母はいつも体温が高めである。平熱が37度なんです、ということにしているが、ほんとうは平熱は36度台のはずだ。送迎されているとはいえデイサービスへ到着するまでの運動量は母にとって長距離を走ったに等しいので、有酸素運動過多によって体温も上がっていると思われるのである。
デイの連絡帳にはヴァイタルチェックが記録されていて、いつも母は37度あたりを記録されている。

だが、この日、ヴァイタルチェックで39度を超えているという。
「え? なんででしょうね。様子はどうですか」
「ご様子はお元気なんですけど……念のため2回は測りましたが、やっぱり39度を超えてまして」

デイサービスの送迎車は毎回8時50分に我が家へ到着する。毎回母は10分くらい前から上がり框に座ってスタッフが来るのを待つ。この日もいつものように準備をして、機嫌よく送迎車に乗って出かけたのだったが。
保育園と同じで、病気になったら預かってはもらえない(笑)。ほかの利用者にうつるのを防がなくてはいけないし、家族が困るのはわかっているけど置いてはおけないのである。違うのは、介護サービスは施設側が送り届けてくれることである。
「お医者さんに行かれるのでしたら、そこまでお送りしますよ」
それなら、とかかりつけ医の所在地を説明し、そこまで連れてきてもらうことにした。

まだ10時になっていなかった。母がデイへ出かける日に外出予定を寄せて集めて(笑)こなすのだが、この日の予定はすべてチャラになってしまった。参ったなあ、と思わず口をついて出た。
診療所ヘ行くと、デイの送迎車がちょうど到着したところだった。運転は朝迎えに来てくれた男性スタッフだった。
「すみません、お手間とりまして。せっかく迎えに来てもろたのに」
「いいえ、そういえば今朝はいつにもまして足許ふらついてるなあ、と思たんです」
「そうですか」
足がふらふらなのはいつものことだ。しかし、「いつも」とのほんのわずかな違いを察知できるのは、こうした第三者的な立場でありなおかつ恒常的に対象を見ている人ならでは、といっていいのだろう。同居しているから、いちばん近くにいるからすべて関知しているとは限らない。朝食の途中で何度も椅子からずり落ちそうになったなそういえば、と、「いつにもまして足許ふらついてる」というスタッフの言葉を聞いて初めて思い至ったが、ほんとうならそのときに私がなんか今日は様子がおかしいと気づくべきなんだろうし、ずり落ちそうになる母を数回にわたって支え起こしていながら体がいつもより熱いと気づくはずなんだろう。「近すぎる」と、肝腎な時に限って盲いてしまう。

糖尿病のかかりつけ医とは月イチ検診で会っている。母の病状はよくもなっていないが悪化もしていない。つまり安定しているので、血糖値検査と投薬調整だけで、実をいうとなんとなく受診の意味に疑問符を振りたくなることしばしばなんだが、つねづね診てもらっていないと、この日のように突発的な発熱とか病変とかがあった時に、やはり困るのであろう。「急に高い熱が出たんやねえ、どうしたんやろうねえ」と主治医はにこやかな表情で母に話しかけた。娘がかかっていた小児科医とおんなじだ、と思った。臨床医は優しい言葉と柔和な笑顔がつくれないと務まらない。よほど腕がいい場合を除いて、無愛想で乱暴な言葉遣いだと評判は地に落ち客(患者)の足は遠のく。この医師はそういう意味では申し分ない部類に入ると思うが、若干思い切りが悪いような気がする。躊躇しがちであったり、あるいは様子を見ようといって長期間結論を出さずにいたり、こうしよう、いややっぱりこうしようと指示や方針を変えたり……大なり小なりどんな医師にもある傾向だけど、過ぎると大事な時に判断を誤ってくれちゃいそうな嫌な予感に導かれる。

ま、それはそれとして。

主治医は「つい最近インフルエンザの患者さんもいたのでね、その可能性もあるし検査しましょう」「お年寄りは肺炎が怖いから胸のレントゲンも撮りましょう」あれも、これもと車検チェックシートを確認するみたいに急に高熱を出す原因をつぶしていった。つまり、母にはそのような予兆は見えていなかったし、月イチの検診結果はいつも穏やかであったから、急な発熱は外部因子によるはずと思ったに違いないのだった。

しかし私は、前夜からの母の様子、ここ数日の母の行動などを、記憶をたどりながら確かめていくうちに発熱の理由をつきとめた。インフルエンザに感染などするはずがない、私以外とはほとんど接触していないのだから。咳は出ていないし、呼吸もいたって健全であるから肺炎も考えられない。
発熱の原因は、母特有の気疲れと、体力の消耗だ。
5月、母にとっての大きなイベントがいくつかあった。

1)ショートステイを体験した。3泊4日。
2)リハビリデイサービスに通い始めた。
3)ご近所に慶事があったので、ある大安の日曜日、ご近所と誘い合わせてそのお宅を訪問しお祝いにした。
4)親戚内にも慶事があり、ある大安の土曜日、じぶんのきょうだいたちとその親戚を訪ね、お祝いした。

とくに(3)と(4)はたいへん非日常的なことなので、ずっとずっと以前から頻繁にその話題をもちだしてはどうしようこうしようああしようとひとりで問題提起してはひとりで議論しひとりで合点していた。5月の後半は気疲れMAXであったろう。
「たっぷり眠れば治る」と直感した。

主治医は解熱剤のほかに抗菌薬も出してくれたが、たぶん、ぐっすり寝れば熱は下がる。まあしかし、処方された薬はおとなしく全部服用しましょう。
予想どおり、その日の夕刻には母の体温は「平熱」の37度近くまで下がった。解熱剤の効果もあったと思うのだが、帰宅してすぐまず薬を飲み、少し横になりよし、という私の言葉にしたがってパジャマに着替えてベッドに横たわったとたん、ぐーぐーと眠りこけ、昼食の時間になっても起きないで眠り続けた。夕方5時を過ぎてようやく目を開いたので一度起きるように声をかけた。熱を測ると37.5度までさがっており、こしらえた卵粥をペロリとたいらげた。そのあとまた横になり、続いてごおおおおーーーといびきをかいて激しく眠りこけた。夜半に一度起きたときはさらに体温が下がっていた。このぶんだと明日はたぶん通常どおり動こうとするだろう、と私は思った。
翌朝、母はいつものとおりに起きて着替え、ダイニングまで歩き、いつもの椅子にてん、と座った。発熱でさらに体力を失ったようにも見えるが、横になっていた時間が長過ぎて、「体がおかしいなるわ」と感じ、これ以上寝るのは止めようと思ったらしい。

「疲れたんやねえ。たくさんせなあかんことあったし」
「疲れたんやろか」
「そうやで。ぎょうさん寝たら、熱下がったやん。疲労回復できたんや」
「疲れるようなことしたかいなあ」
「お出かけ、増えたし。お祝いごとで気いも遣たし」
「そんなことできつう疲れたんか……自分では全然わからへん、キツう疲れてたかどうやなんて」
「自分がしんどいのかどうかがわからんようになったら、人間おしまいやで(笑)」
「ほんまやなあ」

熱は下がったが、けっきょくこの週はデイサービスをすべて休んだ。加えて、やはり多少動きが鈍くなって諸動作が危なっかしい。そんなわけでほぼつきっきりでそばにいなくてはならなかった。特別に用事が増えたわけではなかったが、自由に動き回れなかったのは少々(かなり)キツかった。私も疲労を溜め込んで、週の終わりには相当バテていた(笑)。いまから対策練らないと、ヤバいな。

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